幸運対菓
ラスグレイブ探偵譚より 著作『チームレッドへリング』
【本作のアプリ版、電子書籍版などは此方から】
「確かに、とある筋から不良在庫のフォーチュンクッキーを安くたくさん買えるって聞いたのが発端なんスよ。クッキーの品質は良いのになぜか返品が相次いで、生産元が潰れたとかなんとかで。あ、コレ、マスターには絶対内緒で、お願いっス」
「少なくとも僕の口からは言わないと、約束するよ」
「どもです。で、まあ、まず一箱買って幾つか食べてみたんだけど、売れない原因は直ぐにわかりました。味も形も悪く無いんですが、全体に占いの結果が渋すぎるんですよ。流石にこんなもの、店に売り込む訳にいかないので、色々考えてみたって訳です」
「なるほど。ケイトは、元のクッキーの占い結果の良くなさから発想を得て、逆に幸運度を上げた占いを作ったって事なのね」
「ま、大体そんな感じ。元のクッキーの再利用は無理そうだったんで、結局、自分でクッキーを作る事にしたんスけど、やったことはあるけど慣れない作業だし、そりゃー大変でね。レシピを一寸した伝で手に入れて、やっと、安定生産できた時は、柄にもなくホッとしたっス。まあ、なんとか売り物にはなって、ちょっとは黒字にもっていけたんだけど、替わりに大量のクッキーが手元に残っちゃって、捨てるわけにもいかないし、結局この通りってわけ。
「ちなみに、良い文言のものは2割もなくって、卸し値の3割で在庫買い占めても、2セットがつくるのがやっとだったって渋さっスよ。あーあ、350枚のクッキー、残り150枚も食べなきゃ、流石に消費期限が不味い……はは、まあ、苦労の甲斐あって予想以上の幸運は掴めたけど、ね」
「……ケイト、確かに、自らの力で幸運を掴もうというその意志は、動機が良かれ悪しかれ立派なものだと思うよ。でも、それで体を壊したりしては、折角の幸運も掴んだ手から逃げ出すかもしれないよ。それは肝に銘じておいた方がいい。さて、このクッキーは君へのプレゼントだ。是非食べてみてくれ」
私は、ケイトが持ってきたフォーチュンクッキーを、彼女に手渡した。
「うーん、まだクッキーを食べたい気にはならないけど……何、占いだけでも見ろ、っスか」
パキっとクッキーを割って、中の占いが書かれた紙を見るケイト。その目が大きく見開かれた。
「ケイト……何か占いに思い当たる節でもあるの?」
ケイトは黙って、占いの紙を見せた。そこにはタイプでなく手書きの文字でこう書かれていた。
『幸運は君の手の中に。体調悪化に注意。……今回はよくやった。が、ま、ほどほどにな』
「え……まさか、マスター? 」
店の中を見ると、カウンターの中からこちらを伺っていたマスターが、ニヤリと笑って親指を立てていた。
なに、僕が指摘するまでもなく彼にはすべて最初からお見通しだったわけだ。
数日後。
ケイトは、暫く実家の教会から仕事に通い、バランスのとれた食事をしているとのことで、すっかり顔色がよくなった。
儲けた金で、一体何を買うのだろう?
……なお、ケーキを半分食べたアイリーンは、その分体重が増えたとかで、嘆きの日々を送っている。
了